日本主導の火星衛星探査が新たな段階に進展
日本の火星衛星探査計画が、世界初の試料回収という目標に向けて本格的に動き始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2026年10月20日、火星衛星探査機「MMX」の宇宙空間への投入を完了した。
探査機を運んだのは、種子島宇宙センターから発射されたH3ロケット10号機だ。午前4時40分ごろの打ち上げ後、約70分でロケットからの分離に成功した。
MMXの目的は、火星の周囲を回る衛星フォボスに接近して地表の物質を採取し、地球へ届けることにある。火星圏から試料を持ち帰った実績はこれまでなく、計画の達成は惑星探査における新たな成果となる。
未踏の衛星フォボスで砂や岩石の採取を計画
探査対象のフォボスは、火星から約6000キロ離れた軌道を周回する衛星だ。直径は約23キロで、丸い球体ではなく、ジャガイモに似た不規則な形状を持つ。
これまで本格的な探査が実施されていないことから、JAXAは太陽系の中でも特に重要な未探査の天体と位置付けている。
MMXは2027年8月ごろに火星近くへ到着し、2029年ごろにフォボスへの着陸を実施する予定だ。現地では砂や細かな石を10グラム以上採取し、地球で詳しく分析するために保管する。
試料を収めたカプセルは2031年度に帰還する計画となっている。打ち上げから回収までの探査期間は約5年間に及ぶ。
火星の形成過程と生命環境の成立条件を調査
フォボスから持ち帰る試料は、火星とその衛星がどのように形成されたのかを解明するための重要な研究対象となる。
地球上の施設で砂や岩石の成分を詳しく調べることで、火星周辺の天体の成り立ちを調査する。さらに、地球のような岩石惑星で生命が存在できる環境が成立した理由を探ることも、計画に含まれている。
MMXには、将来の有人火星探査を支える技術の獲得という目的もある。火星の衛星を人間の探査活動の拠点として利用できるかどうかを調べ、今後の宇宙活動に必要な情報を収集する。
科学研究と将来の有人活動の双方を対象とする点が、今回の探査計画の特徴となっている。
欧米の宇宙機関が参加する国際共同探査の全容
MMXは日本が中心となって進める国際共同ミッションであり、月や惑星を対象とする日本主導の探査事業として最大規模となる。
探査機には13の機器が搭載されており、そのうち4つは海外の機関から提供された。ドイツとフランスの宇宙機関は、MMX本体に先立ってフォボスへ降りる探査車を共同開発した。
米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)も、分光計や通信関連機器の提供を通じて参加している。
探査機本体の開発は三菱電機が担当し、総開発費は553億円に上る。往路、探査、復路の3部分を順次使い分ける構造で、帰還時には必要な部分のみを地球へ向かわせる。
火星圏の試料回収を巡り各国の探査計画も進行
火星を対象とする宇宙開発では、探査機による調査に加え、将来の有人探査を視野に入れた各国の取り組みが進んでいる。
中国も火星本体からの試料回収を目指しており、2028年ごろに探査機を打ち上げ、2031年ごろの実現を計画している。
日本のMMXは火星そのものではなく衛星フォボスを対象としているが、火星圏から物質を地球へ運ぶという点では共通する目標を持つ。
MMXの打ち上げは当初2024年度に予定されていたものの、H3ロケットの開発遅延などによって2年間延期された。2023年と2025年の打ち上げ失敗を経て、今回ようやく火星への航行を開始した。
今後はフォボスでの試料採取と2031年度の地球帰還が中心課題となる。世界初の火星圏試料回収を実現するための探査活動が、今回の打ち上げによって始まった。