世界初の基礎技術を持つNECが方針転換
量子コンピューター研究を長年続けてきたNECが、実機の自社開発を終了した。NECは1999年に超電導量子ビットを世界で初めて実現し、現在の量子コンピューターにつながる基礎技術を切り開いた企業の1つだ。約四半世紀を経て、同社はハードウェアの開発競争から離れ、量子技術の活用を重視する方向に戦略を切り替える。
実機開発の中止は2026年3月末に決定された。量子コンピューターを実用段階まで引き上げるには今後十数年にわたり研究開発を続ける必要があり、投資回収までの道筋を描くことが難しいと判断した。有力な技術方式がまだ定まっていないことも、ハードウェア投資を継続する上で大きな課題となった。
超電導方式の先駆者から欧米企業が急伸
NECが世界で初めて実現した超電導量子ビットは、その後の量子コンピューター研究を支える主要技術の1つとなった。現在では米GoogleやIBMなどが超電導方式を採用し、大規模な実機開発を続けている。NECが開いた技術領域で、海外企業が巨額の投資を背景に開発を加速させた形だ。
量子コンピューターの性能を示す量子ビット数では、欧米勢がすでに数百量子ビット規模を実現している。これに対し、NECが公表した実機は8量子ビットだった。基礎技術の確立では先行したものの、実機を大型化して計算能力を引き上げる段階では海外勢との差が大きくなっていた。
長期間の研究投資が日本企業の重い負担に
量子コンピューターは通常のコンピューターとは異なる原理で計算を行い、複雑な処理を高速化する次世代技術として研究が進められている。その一方、商業利用が本格化するまでには長い時間が必要であり、企業は収益が確立していない段階から研究費を投入し続けなければならない。NECはこうした事業環境を踏まえ、実機開発を継続する費用対効果は十分ではないと判断した。
世界では米国や中国などによる量子技術の研究開発競争が強まっている。量子コンピューターは経済安全保障にも関係する重要技術と位置付けられており、研究開発を巡る資金競争も激しい。資金力で海外企業に劣る日本企業にとって、実用化時期が見通しにくい分野への継続投資は大きな負担となっている。
ハードから量子コンピューティング活用へ移行
実機開発の終了後も、NECは量子関連技術への取り組みを続ける。同社は量子技術の研究開発そのものを中断する方針ではなく、量子力学を利用した計算技術や、それを活用するサービスなどに注力する。自社で量子コンピューター本体を開発する事業から、量子技術を利用する側へ重点を移すことになる。
この方針により、NECが長年蓄積してきた量子分野の技術や知見は今後も活用される。実機開発では海外勢との規模の差が広がったが、量子コンピューティングの応用分野では引き続き研究を進める。ハードウェア競争から撤退しても、量子技術を事業に結び付ける取り組みは継続される。
国内実機開発は富士通が主要な担い手へ
国内では今後、富士通が量子コンピューターの実機開発をけん引する企業として注目される。富士通は超電導方式だけでなく、ダイヤモンドスピン方式の研究にも取り組み、異なる技術を並行して開発している。2030年度までには計算能力を大幅に高める計画を掲げている。
NECの実機開発終了は、日本の量子コンピューター産業が直面する資金面と実用化面の難しさを改めて示した。世界的な競争が激しくなる一方、国内では企業ごとに研究対象を絞り込み、限られた資源をどこに投入するかが重要になっている。先駆者だったNECの戦略転換によって、日本の量子技術開発は実機そのものだけでなく、応用技術やサービスを含めた新たな段階に入る。