米国市場の立て直しに向けた大型投資の決定
フォルクスワーゲン(VW)グループの高級車ブランド、アウディが米国での製造事業を拡大する。新たな拠点はジョージア州に設置され、投資規模は約40億〜42億ドルに上る。
ゲルノート・デルナー最高経営責任者(CEO)は10月25日、この計画が長期間の検討と集中的な協議を経てまとめられたものだと説明した。米国での生産拠点設立は、同社の北米事業における重要な経営判断となる。
計画では2027年に建設工事を開始し、2030年代初頭に製造工程を稼働させる。年間生産能力は最大20万台で、約4500人の雇用創出を見込む。
ただし、計画の実施にはVW監査役会の最終承認が必要であり、グループ内の正式な意思決定手続きが残されている。
関税による巨額負担と販売不振が経営を圧迫
アウディが米国内の製造能力を強化する背景には、輸入車に対する関税負担と販売台数の減少がある。
同社は米国向けの車両を欧州とメキシコから供給している。トランプ政権が導入した自動車や金属製品、部品への追加関税により、2025年には約12億ユーロ(14億ドル)の費用負担が発生した。
米国での販売台数も同年は前年比16%減となった。アウディは北米市場で本来の事業能力を十分に生かせていないと判断し、現地製造への移行によって状況を改善する方針を示している。
デルナーCEOは米政府との交渉内容について詳細を公表していない。関税の減免措置などが投資条件に含まれるかどうかも明らかになっていない。
ドイツ労働組合が経営陣の政治的対応を批判
米国への大型投資に対しては、ドイツ国内の労働組合から異なる評価が示された。
ドイツ最大の産業別労働組合IGメタルは、デルナーCEOが米国の選挙期間中にトランプ大統領と協調する姿勢を見せたことを問題視した。同組合の報道担当者は、トランプ氏の政策がドイツの自動車産業や経済に悪影響を与えているとして、経営陣の対応を批判した。
一方、IGメタル委員長でVW監査役会副会長を務めるクリスティアーネ・ベナー氏は、米国市場における競争力向上を目的とした工場建設そのものは必要な取り組みだと評価した。
そのうえで、海外事業の拡大と並行して、ドイツ国内の各生産拠点で働く従業員に対し、将来の雇用について明確な方針を示すよう求めた。
主要株主も国内生産と雇用の確保を重視
VWの第2位株主であるドイツ北部ニーダーザクセン州も、アウディの米国投資に関する見解を示した。
同州のオラフ・リース首相は、米国での事業成長がドイツ国内の雇用維持に結び付くのであれば、今回の計画は好機になるとの認識を示した。
ただし、海外での生産増加がドイツ国内の製造活動を置き換える形になってはならないと指摘した。米国市場で得られる成長が、ドイツ国内の雇用や付加価値の創出を支えることが重要だと強調している。
今回の投資を巡っては、北米市場での競争力を高めるという経営上の目的と、ドイツ国内の生産基盤を守るという労働側や株主の要求が並行して示されている。
北米の製造体制再編とドイツ拠点の将来が焦点
アウディはジョージア州に加え、サウスカロライナ州でも年間2万5000台を生産する計画を進める。現地ではVW傘下のスカウト・モーターズが20億ドルを投じて工場を建設しており、その施設を活用する予定だ。
一部の車種は欧州から生産を移し、米国外への輸出にも対応する計画となっている。ジョージア州では「Q7」「Q8」「Q9」のSUVを製造する方針が示されている。
VWのオリバー・ブルーメCEOは、北米を収益性の高い成長が期待される地域として重視している。アウディの新工場は、その事業戦略を進めるための生産基盤となる。
一方、ドイツ側では雇用や国内工場の将来を巡る要求が続いている。VW監査役会の承認を控える中、米国事業の拡大とドイツ国内の生産・雇用維持をどのように両立させるかが、グループ経営の重要な課題となっている。