データ問題受け再稼働手続きの撤回を決定
中部電力は浜岡原子力発電所を巡るデータ不正の調査結果を踏まえ、3号機と4号機の再稼働に向けた申請を取り下げることを決めた。審査過程では、地震による揺れを想定する重要なデータが不適切に処理され、原子力規制委員会への説明にも事実と異なる内容が含まれていた。
9月14日に公表された外部調査委員会の報告書は、問題の経緯だけでなく、社内の管理体制や意思決定のあり方にも踏み込んだ。調査は関係者への聞き取りや4000人以上へのアンケートなどを通じて進められ、組織内で不適切な対応が続いた背景を検証した。
中部電力は同日、報告書を原子力規制委員会に提出した。今後は規制庁と調整しながら、申請を取り下げるための手続きを進めるとしている。
内部から警告あっても不正是正につながらず
今回の調査で重く受け止められたのが、問題を指摘する社内通報が存在していたにもかかわらず、不正の発見や修正につながらなかった点だ。2019年10月には、規制当局への説明と異なる手法で地震想定のデータを算出しているとの情報が社内窓口に寄せられた。
窓口側は担当部署に確認し、実際に異なる処理が行われていることを把握したものの、資料への明確な記載には至らなかった。さらに2021年1月にもデータ処理に関する通報があったが、担当部門側の説明を基に問題はないと判断された。
調査委員会は、通報を受ける側が担当部署による調査内容を十分に検証できなかったと分析した。社内で問題を発見する仕組みは存在していたものの、独立した監視機能として十分な役割を果たせなかったことになる。
赤沢経産相が通報制度の根本的見直し要求
赤沢経済産業相は、中部電力の一連の対応について厳しい姿勢を示した。原子力発電の利用には安全性の確保に加え、立地地域を含む社会からの理解が不可欠だとした上で、今回の問題は国民の信頼を大幅に損ねたと批判した。
特に、2度にわたって内部から情報が寄せられていたにもかかわらず、適切な対応に結び付かなかった点を問題視した。経済産業省として、中部電力に対し社内通報制度を根本から立て直し、その改革を確実に進めるよう求める考えを示した。
調査報告でも、内部窓口の担当者が専門的な地震評価を十分に判断できない状況が課題として挙げられた。このため、必要に応じて外部の専門家に助言を求める運用を義務付けることなどが再発防止策として提案されている。
社内文化と経営陣の姿勢にも調査が言及
問題の背景には、内部通報制度だけでなく、社内で形成された判断基準もあったとされた。調査委員会は、重要な目的を達成するためであれば、一定の手続き違反を容認する発想が一部でみられたと分析している。
原発を早期に再稼働させる必要性が強く意識される一方、審査の長期化に対して経営陣から担当部署への強い要求が続いていたことも確認された。会社側だけでは解消できない審査上の要因が存在したにもかかわらず、現場は目標達成を迫られる状況に置かれていたと報告書は整理した。
一方、経営陣が不正行為を直接命じた事実は認められなかった。問題は個別の指示よりも、異論が十分に反映されにくい組織運営や、目的達成を重視する意識が積み重なった点にあるとされた。
経営トップ辞任後の組織改革が次の焦点
中部電力は再稼働申請の取り下げに加え、林欣吾社長や勝野哲会長らの辞任を発表した。経営トップの交代に発展したことで、問題は原子力部門だけでなく、会社全体の統治体制に関わる課題として扱われることになった。
調査委員会は、専門性の高い部署へのコンプライアンス人材の配置、部門をまたぐ人事異動、異なる意見を安心して述べられる環境整備などを提案した。中部電力はこれらを踏まえ、原因分析と具体的な再発防止策をまとめた上で、原子力規制委員会へ改めて報告する方針だ。
申請撤回と経営陣の辞任だけで、損なわれた信用が回復するわけではない。今後は、社内の警告を経営判断につなげる仕組みを実効性のあるものに改め、安全を巡る判断が適切に検証される組織体制を構築できるかが焦点となる。