AIが機能するゲノムを書き出す段階へ
生成AIを使い、自然界では見つかっていないウイルスのゲノムを設計して実際に機能させる研究成果が発表された。米スタンフォード大学とアーク研究所などのチームによる研究で、成果は科学誌「サイエンス」に掲載された。AIが単に既存の遺伝情報を分析するだけでなく、新たなゲノムを生成し、それが生物学的に働くことを示した。
実験で対象としたのはバクテリオファージと呼ばれる細菌感染ウイルスだった。人を感染対象とするものではなく、研究チームは人や動物、植物、真菌に感染するウイルスの配列を学習対象から除くなど、安全面を考慮して研究を進めた。
数百のゲノム候補から16種類が機能
研究では、天然のバクテリオファージが持つ多数のゲノム配列を生成AIに学習させた。その上で、人工ウイルスとして成立する可能性がある285種類のゲノムを設計させ、大腸菌を使って機能を検証した。その結果、16種類が増殖できる人工ウイルスとして成立した。
作製されたファージは約11個の遺伝子で構成される単純なウイルスで、人への感染性はない。AIが作り出した配列は自然界で確認されていたものをそのまま再現したものではなく、新たに生成されたゲノムだった。生成された遺伝情報が実際の生命現象につながったことが研究の重要な点となる。
耐性菌を破壊する能力も実験で確認
研究チームはさらに、人工ファージと天然ファージを組み合わせて培養する実験を繰り返した。この過程で、通常のウイルスに対して抵抗力を持つ大腸菌にも感染できる人工ファージが確認された。感染後には大腸菌の細胞を破壊する機能も示された。
この能力は、抗菌薬が効きにくい細菌への治療手段として利用される可能性がある。細菌を攻撃するファージを医療に利用する方法では、標的となる細菌に合ったウイルスを確保することが重要となる。AIによって目的に応じたファージを設計できれば、新たな治療技術につながる可能性が示される。
検知を逃れる遺伝子設計への警戒強まる
医療への活用が期待される一方、AIによるゲノム生成能力はバイオセキュリティー上の懸念も伴う。現在、DNA合成を行う企業では注文された遺伝子配列を検査し、危険な病原体に関連する情報が含まれていないか確認する仕組みが利用されている。
しかし、AIで遺伝子の配列を変化させながら元の機能を維持できれば、既知の病原体との一致を基準とする検知方式では把握しにくくなる問題が指摘されている。アーク研究所でAIモデルの開発に関わったエリック・グエン氏は、機能を残したまま配列を変え、既存の検知システムを回避する設計が可能になることへの懸念を示している。
医療革新と生物脅威への備えが焦点
今回の研究は危険な病原体を作製したものではなく、研究対象も細菌に感染するウイルスに限定されている。ただ、生成AIが新しい遺伝子配列を設計し、機能するウイルスを生み出せる能力を実験で示したことで、技術管理の重要性が改めて浮上した。
研究チームも、薬剤耐性菌への治療応用を期待する一方、生物兵器などへの転用リスクを指摘している。AIと生物学を組み合わせた技術が進展する中、研究段階の安全対策だけでなく、DNA合成時の検査や政策面での対応をどのように整えるかが課題となる。技術の恩恵を生かしながら悪用を防ぐ仕組みの構築が求められている。